2014/09/10

骨折した女性の救急搬送が38回拒否された事件の背景

埼玉県川口市で昨年2月、自宅で転倒し脚を骨折した50代女性が、複数の病院から計38回にわたり救急搬送の受け入れを断られていたことが2014年5月30日、県の調査で分かった。悪性リンパ腫の既往歴があり「専門外」などの理由で拒否されていた。

と、このような内容でテレビや新聞で報じられたのを見て、「ひどい!」という感想を持ったのですが、「BLOGOS」(無料通話アプリでおなじみのLINEが運営するニュースブログ)で書かれていた記事を読んで、そんな簡単な問題ではないのだと知りました。決して、搬送を断った病院が悪いわけではないのですね。自分の夫が同じような状況だったら、断った病院すべてに暴言を吐いてしまうかもしれませんが。
まさに私の専門分野、血液内科と救急がからんだ事件です。以前書いてNHKが特集してから埼玉県はどう考えているんでしょう。救急搬送36回:NHKさん。受け入れ拒否ではなく受け入れ不能です
でも二時間二十二分で搬送先がみつかったのは、まだ大都市さいたま市に近かったからでしょうが。(もう1例は36回、5時間8分ですが、救急車運用考えてもばかみたい)

まず読売の記事。骨折なのに「専門外」女性の救急搬送38回拒否たかが骨折なのに診てくれないと医療機関の怠慢を訴えるような記事です。

この記事だけなら、本当に埼玉救急は仕方ないなと責められても仕方ないでしょう。しかし東京新聞の記事をみると現状の問題点が何も書かれていなかった読売新聞の認識不足が明らかになります。救急受け入れ38回拒否 川口の骨折女性 昨年、搬送2時間超
まずこの女性は悪性リンパ腫という持病をお持ちです。しかもその病気は現在も存在し、原発部位以外脳に病変を認めているようです。

リンパ腫ではあまり転移という言葉は使わないのですが、もし脳にリンパ腫が現在もあるのであれば入院して治療している事が予想されます。しかしこのかたは入院していませんので、この病変はおちついている可能性が高い事が予想されます。または残存していても放射線治療中で外来で通院している可能性もあるでしょう。つまり状態はとても落ち着いている可能性が高いのです。

もしくは様々な治療をおこなったが効果がなく、入院治療の適応がなくなったことも考えられますが、その際は急変時の対応策は普通計画されているはずです。(緩和治療計画という事です)

そのような状況が推定されるとリンパ腫の事はあまり考えずに普通の骨折治療をして大丈夫の可能性が高くなります。

しかしその情報があるはずの悪性リンパ腫を診てくれていた病院の整形は万床。そして他の病院に36回診療依頼をしたにもかかわらず受けれてくれなかったとの記事なのです。

だから言っているでしょう。血液内科の既往、持病を持っていたらその患者さんはなかなか病院からの情報がないと取ってくれません。いや情報があっても何かあったら専門家がいませんのでととってくれません。

これが血液内科、そしてその患者さんの現状なのです。

骨折がリンパ腫の治療に伴うステロイドの影響かもしれませんし、もし脳の病変がコントロールできないくらいのものだとしたら、リンパ腫骨病変にともなう骨折かもしれません。それは一般の血液内科以外の医師達にしてみれば引き取る事で患者さんを悪化させてしまう恐怖にしかならないのです。

また救急隊もすこし考えればいいのです。血液内科がいないと言われて断られたら、血液内科がいる病院をあたればいいのに、とりあえず病院に片っ端から連絡するから38回も連絡する事になるんです。(まあ血液内科がある病院少ないですけど)

いったいあの久喜の事件は反映されているんですか?

川越救急クリニックの上原先生が、埼玉県の医療改善状況を記事にしています。救急車タブレット端末使用・・約2ヶ月経過
でも結局38回だもな。分析しても対策とらなければかわりません。